イギリス新移民制度から考える移民政策-移民問題・ポイント制・高度人材活用-

テートモダン

イギリスがEUを離脱し、イギリスは従来とは異なる入管制度を適用することとなる。イギリス政府はEU離脱に伴い2020年2月19日に新たな移民受け入れ制度の概要を発表した。

これまでは欧州経済地域(EEA)の労働者は域内を自由に移動することができたが、域内の低賃金移民労働者が大量にイギリスに流入し、2016年の国民投票で離党派が勝利するという結果につながった。

本記事では移民の流入を抑止し、高度人材の受け入れに軸足を移そうとするイギリスの新移民制度の在り方と課題を検討していく。

2019年に決定されたイギリス新移民制度について

イギリス内務省は2020年2月18日、EU離脱(Brexit)後の新しい移民制度を2020年1月1日から導入することを発表した。新しい移民制度(UK’s Points-based immigration system)は、保守党が総選挙の公約として掲げていた「ポイント制」の移民システムである。 

イギリスの移民政策は1990年代にそれまでの抑制的な方針を転換し2000年に30年ぶりに労働許可証の発給規制が緩和されるなどの改正がなされた。2002年からは、卓越した技術や経験を有する者が国内の求人なしで就労や開業の機会を求めてイギリスに移住することを許可する「高度技術移民 プ ロ グ ラ ム(HSMP :Highly Skilled Migrant

Program)」が導入された。一方で2001年に起こったいくつかの人種暴動を機に多文化主義国家としての在り方に疑問が提起され、共同体の結合の重要性が問われるようになった。

この頃からイギリスはは「経済競争力の強化等イギリスの利益になる高度人材については積極的に受け入れる一方で、低熟練労働者については最小限にとどめる」という方針を打ち出していたため、今回の新移民制度はこの流れをより強固なものにすると同時に特にEEA域内からの移民を減らすものとなる。

2019年に決定されたイギリス新移民制度の詳細

イギリス新移民制度の目的

  • 移民の数を減らす
  • これまでより優秀な労働力を国内に呼び込む(単純労働者など低技能人材の流入排除)
  • イギリス国内の企業・雇用主が国外からの安価な労働力への依存から脱する
  • 現在働いている従業員の環境改善や維持、オートメーション技術への開発投資の増加
  • 国民にEU離脱のメリットを明確に見せる

政府は従来から移民の流入削減を重視しており、離脱後の移民政策についてもEEA域内の移動の自由を廃止することを掲げていた。これは新制度の中身とは別に国民にEU離脱のメリットをアピールする狙いが強く感じられるものとなっており、今後政権をどちらが担っていくのかによって現在の方向性は変わる可能性もある。

イギリス新移民制度の実施方法

  • EU離脱移行期間終了後、2021年1月1日導入
  • オーストラリア型ポイント制(正確にはオーストラリアのポイント制を参照したイギリス独自のポイント制)を導入、合計70ポイントに到達すると移民はイギリス国内で就労できる。ポイントは職業・資格・給与などに応じて付与。(ポイントの詳細やパターンは図1, 2を参照)
  • 入国を希望する海外労働者は「英語が話せる」「技能職への仕事のオファーを受けている」「承認された雇用主がスポンサーになっている」ことが条件(左記をクリアで50P)
  • 入国を希望する熟練労働者の賃金基準が現行の3万£から2万5600£に下げる。
  • 入国できる熟練労働者数の上限撤廃
  • 熟練を要する職種から給仕人を除外し、新たに大工、左官、保育士が加わる

本制度はこれから英国に入国する人々を対象としたものであり、英国に在住している移民には直接新制度の影響は出ない。現在イギリス国内で今後も国内に留まるための申請をしているEU市民はおよそ300万人以上いるといわれており、政府は彼らが労働市場の需要と共有のバランスを整える役割を果たす可能性について言及しているが、具体的な支援策などは明らかにされていない。

最大野党・労働党が「現在、英国に住んで働いている移民へのメッセージを考えたようにはみえない」と指摘しているように、英国に住んで働いている移民にもより目を向ける必要がある。

図1, BBCが示した70ポイント獲得方法の例(大学教員)。仕事のオファーで20ポイント、技能/スキルで20ポイント、英会話ができることで10ポイント、関連性のあるSTEM教育(Science, Technology, Engineering and Mathematics)で20ポイント、計70ポイントとなる。
CharacteristicsTradeablePoints
Offer of job by approved sponsorNo20
Job at appropriate skill levelNo20
Speaks English at required levelNo10
Salary of £20,480 (minimum) – £23,039Yes0
Salary of £23,040 – £25,599Yes10
Salary of £25,600 or aboveYes20
Job in a shortage occupation (as designated by the MAC)Yes20
Education qualification: PhD in subject relevant to the jobYes10
Education qualification: PhD in a STEM subject relevant to the jobYes20
図2, 政府がWebサイト上で公開した新制度のポイント配分

イギリス新移民制度の特徴と批判

イギリス政府は従来から移民の流入削減を重視しているが、新たな移民制度はEEA圏内から多く流入する低技能労働者の受け入れは継続すべきではないという見方に立ち、域外からの移民と同様の規制を設けることに重きを置いた方向性となった。これは政府の諮問機関であるMigration Advisory Committee(MAC)案に近いものとなっている。

新制度は実行前であるため結果を評価することはできない。しかし政府の説明に対して英国産業連盟のキャロライン・フェアバーン事務局長も述べているように、企業にとっては海外からの人材を雇用することと、新しい技術に投資することは二者択一ではない。経済を前進させるためにはどちらも必要であり、業種によってその必要の程度は変わる。

この点において政府の制度改正の意義と目的の説明は移民増加を快く思わない一般市民の理解は得られても、一部企業の理解は得られない可能性が高い。新制度に対して非難のコメントを寄せているUnited Kingdom Homecare Association (UKHCA)など人手不足が深刻な身体性を伴う産業分野では深刻な問題であるだけに、今後の政府の追加支援制度(一部産業への支援を増やす計画を示してはいる)に注目する必要がある。

イギリス新移民制度とオーストラリアポイント制度との比較

新制度導入の過程に対してはオーストラリアのポイント制度と比較してその在り方を検証することができる。

オーストラリアのポイント制度は白豪主義への批判が高まった1979年に、カナダのポイント制を踏襲し多文化主義の本格的開始と相まって始まった。ポイント制度導入の目的は「非差別的移民政策の実施」「能力基準へのモノサシの置き換え」であったため、高度技能人材を中心に受け入れ低技能人材の受け入れは拒む今回のイギリス新制度と同様の目的で始まっている。

しかしオーストラリアは幾度かの制度改正を経て従来の技能職種リストに従ったポイント配分はなくなり、その時々で必要とする人々を受け入れるという意味合いが強まった。オーストラリアの制度と比較するとイギリスの新制度は固定的で些か門戸が閉じている印象がある。

関根によると、ポイント制の効果的運用のためにはポイント制のみではなく、より広い移民政策の構想が必要となる。また高度人材優先移民政策の実施に熱を入れすぎ、人道主義的移民が軽視されないように注意すべきである。これらの先行事例を踏まえても、新制度が2021年1月1日に導入されて以降、どのような関連する移民政策と国内の労働力不足を補う政策が実施されるかを注意する必要があるのではないだろうか。

4, 参考資料

この記事を書いた人

matto

文部科学省トビタテ!留学JAPAN6期生として2016年に約半年間イギリスのリヴァプール・バースで留学&インターンシップ、観光に関する調査を実施。帰国後はイギリス居住経験を生かし長野県を拠点にインバウンド推進事業や留学推進事業に関わっている。世界遺産検定3級。